KC看護アカデミアブログ

小論文のワンポイント講座 小論文の採点基準は?(2)

こんにちは!

塾長の陀安です。

 

前回の続きです。

 

看護系の小論文で採点者が見ているのは次のような部分でした。

 

1文章表現(漢字表記、言葉同士の対応、読みやすさ等)

2思考の深さ

3医療・看護への意欲や関心

4倫理観やバランス感覚

 

今回は4について説明します。

 

 

4倫理観やバランス感覚

 

 

倫理観

 

 倫理観とは、「困っている人がいたら手を差し伸べる」「正しいことをする」といった考え方のことです。看護師にこのような倫理観が求められるというのはわかりますよね。学校側は看護師としての適性をはかろうとしているのです。

 

 何年か前に、某テレビ局のアナウンサーがブログで、人工透析にかかる膨大な医療費が国の医療費全体を圧迫し、保険制度の存続を危うくしていると指摘したことがあります。そして「透析患者を殺せ」という過激な発言をしてしまったせいでブログが大炎上しました。

 

 人工透析の医療費が莫大な額であること、それが国民医療費の多くを占めていることは事実です。また、国民医療費の膨張により、保険制度の破綻が危惧されているのも事実です。彼は保険制度を維持することの大切さを主張しようとしたのかもしれませんが、「透析患者を殺せ」は過激すぎる発言でした。彼自身もその後、失言だったことを認めています。アナウンサーであるにもかかわらず、彼には言葉に対する感性が欠けていたと言わざるを得ません。

 

 しかし、それ以上に欠けていたのは、透析患者の苦しみに対する想像力ではないかと思います。
 人工透析は、腎臓の機能が低下してしまい、体の中の老廃物を自力で処理できなくなった人が受ける治療です。週に3回、1回につき4〜5時間かけて血液中の老廃物を人工的に除去する大変な治療だそうです。暴飲暴食が原因と言ってしまうのは簡単ですが、それは一般論にすぎません。一人一人の患者が抱えている背景はさまざまです。どんなに気をつけていても体質的に病気になりやすい人もいます。また、つい暴飲暴食をしてしまう弱さを併せ持っているのが私たち人間です。そのように見ると、病気の原因を「自業自得」という言葉で片付けてしまうのはとても乱暴な議論です。

 

 この例のような場合、看護師を目指す人なら、患者の苦しみや人間の弱さに寄り添う方向で考える必要があるでしょう。
 医療費や保険制度という大局的な見方も大事ですが、顔を持った一人一人の患者のことに思いを巡らせる視点が求められると思います。採点者はそういったところを見ています。倫理観はそのような部分に関わるものです。

 

バランス感覚

 

 また、十年ほど前、ある予備校で教えていたとき、「歩きスマホ」をテーマにして小論文を書いてもらったことがありました。生徒の一人が「注意すれば歩きスマホをしてもいい」という内容で書いてきたので、社会問題になっていること、注意散漫になるという実験結果があること、罰則付きの法的規制がされている国もあること等を伝えて、内容を見直すように指導しました。でも彼女はかたくなにそれを拒み、ジェスチャーをまじえて(下を向かず、顔を上げて視線と平行にスマホを掲げるのだそうです)安全な歩きスマホのやり方を教えてくれました。

 

 彼女個人の体験としてはその通りなのかもしれません。しかし、「歩きスマホ」の危険性が報道されているなかで、「歩きスマホ」を肯定する内容で書いた場合にどのような印象を持たれるのかを考えてみなければなりません。個人の体験を超えて広い視野で考える必要があります。
 「わたし自身はこうだから」ではなく、「わたしたちはどうするべきなのか」を考えるということです。それがバランス感覚です。これはけっして「いい子ぶっている」わけではありません。自分の体験を相対化して、論理的に考えるということです。

 

 独自の主張、大胆な発想、他との差別化、こういったものは、たしかに目を引きます。それが高評価につながる場合があることも否定できません。しかし、それらは諸刃の剣で、ともすれば「非常識」や「ひとりよがり」ととらえられかねません。

 小論文の参考書の中には、「常識的な意見を書いてはいけない」とか「いい子ぶってはいけない」等と述べているものもあります。しかし、それを真に受けてしまうと、非常識で過激な意見になりかねません。

 

 主張自体は常識的でかまわないのです。結論自体は多くの人と一緒でもいいのです。重要なのは、なぜそう考えるのかという理由の部分です。理由がオリジナルであれば、それはオリジナルな意見となります。結論自体は常識的であったとしても、その結論に至る思考過程が他の人と違うのであれば、それは十分斬新で個性的な意見です。

 

 

2回にわたって小論文の採点基準についてお話しました。

 

採点者は4つの基準を念頭に置いて答案を評価します。

皆さんも4つの基準をふまえながら論述練習をしていってください。

 

 

最後に評価方法についてお話します。

上のような基準で答案を見るとして、評価の仕方はどうするのでしょうか?3つのパターンが考えられます。

①点数をつける

②段階評価する

③参考程度

 

①は、たとえば75点のように、具体的な点数をつけます。

②は、たとえばA〜Eの5段階で評価します。

③は、点数化も段階評価もせず、学科試験で合格ラインを超えた受験生の答案を読んで内容を確認します。もしくは、学科試験でボーダーライン上にいる受験生の答案を読み比べて合否を決めます。

 

小論文の採点に関する皆さんの疑問に少しでも応えることができたでしょうか。

 

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。